さて、建築にまつわる難読漢字問題です
この字は何と読むでしょうか?
【 掃部様 】
正解は『かもんさま』と読みます。
おもしろいのはその意味なのですが
【 つるはし・くわ・すき等が柄から抜けてしまう事 】
を指す言葉として使われるそうです。
土工事の職人さんが、つるはしで土を起こしているときにスポッと先端だけが柄から抜けてしまった! うん、確かによくあるんですよね、私も経験があります。
そんな時に『ああっ、かもんさまだっ』とか、そんな感じなのでしょうかね。。
私自身30年以上建築の世界に居ますが、この言葉は一度も耳にしたことはありません。
なぜ、こんな風に言うのか?すごく興味を持ったので少し調べてみました
『掃部(かもん)』という言葉は、大化の改新の時代『律令制』において、宮内省に所属した『掃部司(かもんづかさ)』という部署・官位をあらわしています。宮中行事の設営や後片付けや清掃などを担当する、今でいうイベントスタッフのような仕事だったようです。
なんだかものすごく古い話ですね。古すぎてピンこない。1300年ぐらいさかのぼってる・・・。しかもなぜそれがつるはしとつながるんだ???
やがて時が過ぎて武士の時代の事、武家が官位をつけるようになると『掃部頭(かもんのかみ)』や『掃部助(かもんのすけ)』を名乗る武将が現れました
有名どころでは、徳川家康の四天王と呼ばれた井伊直政、安政の大獄で有名な井伊直弼など、井伊家の当主たちは歴代『井伊 掃部頭 〇〇』を名乗っています。
余談ですが、私の生まれた京都市伏見区には『京都市伏見区桃山井伊掃部西町・東町』という町名があるのですが、子供の頃は、何度教えてもらっても『いいかもん』という読み方が覚えられませんでした。
ここで少しだけ官位について説明します。私の解釈によるところなので、大体の雰囲気で読取っていただけると有難いです。細かいまちがいはご勘弁を。
701年、唐の国にならった律令制が我が国に初めて導入されます。これが俗にいう大宝律令(たいほうりつりょう)、初めて刑法と行政法、民法がそろった本格的な法律が成立したというわけです。
その時に一緒に導入されたのが『四等官』と呼ばれる人事システムでした。
偉い順に、長官(かみ)次官(すけ)判官(じょう)主典(さかん)の四つの官位にわかれています。
そして、職種によってあてられる漢字は違えどすべての官位はこの読み方なのです。
例えば『国司(こくじ)』、こちらは現在で例えると知事のような存在で、地方の行政をつかさどる役職です、偉い順に、守(かみ)、介(すけ)、掾(じょう)、目(さかん)と書きます。
昭和の時代、TVドラマで『大岡越前』や『遠山の金さん』などの時代劇が人気でしたが
『大岡越前』の本当の名前は『大岡越前守忠相(おおおかえちぜんのかみただすけ)』です。意味するところとしては、【現在の福井県(越前)の知事(守)の、大岡忠相(おおおかただすけ)さん。】となります。
福井県知事がなぜ、江戸の南町奉行を兼任できるのか?合点がいきませんが・・・・。
もうひとり、忠臣蔵の主要登場人物の『吉良上野介(きらこうづけのすけ)』。悪者として描かれる事が多い、少し不憫な人でありますが、介の字が特に名前っぽいので勘違いしている皆さんも多いことと思います。
こちらの『吉良さん』の本名は『義央(よしひさ)』といい、意味合いとしては【現在の群馬県(上野)の副知事(介)の、吉良義央(きらよしひさ)さん】となります
行政職である『掃部(かもん)』にも四等官による、『頭(かみ)』『助(すけ)』『允(じょう)』『属(さかん)』があるというわけですね。
うーん、かなり面白い。。見渡せば廻りにもたくさんその名残があります。弱者寄りという意味の『判官びいき』というコトワザですが
兄の源頼朝に許可を受けることなく、朝廷から官位を受けたことから対立し、最後には謀反者として自殺に追い込まれた源義経に由来しています。
九番目の男子として生まれたことから、通り名(あだな)を九郎、朝廷から頂いた官位は第三位(判官)である左衛門少尉。民衆からは九郎判官と呼ばれ、とても人気があった義経の非業の死が、多くの同情を集め、判官贔屓(はんがんびいき)というコトワザとして伝承されたとの事
この『四等官』のお話は、調べればまだまだ深堀出来そうで、とてもおもしろいのですが、それはまたの機会を探すとして、脱線しすぎたお話をそろそろ『掃部様(かもんさま)』に戻さねばなりません。
局のところ、建築用語として伝わる『掃部様(かもんさま)』
読み方とその語源はわかりましたが、なぜ?つるはしが柄から抜けてしまった時にそう言うのか?
これについては、どれほど調べてもわかりませんでした。
しかたがないので現場のおっちゃん達に聞きに行くことにしましょう 私、かつて設備工事業の番頭さんの経験があるのですが
昔の土工(どこう)さんといえば、一般の方が想像するようないかつい大男は、ほとんどいませんでした。どちらかと言えばこじんまりとした方が多かったと思います
そして、一定のペースで、ほんとうに淡々と、くわえたばこなんぞしながら、 芸術的ともいえるコツを持って、穴を掘っていくのです
もはやその職人技は、美しいと言っても言い過ぎでないぐらい・・・。 まだまだ人力が重用されていた古き良き時代のお話です
つるはしをスーパーカブ(バイク)にズボッと差して、現場にやって来るおっちゃん達、元気にしているのでしょうか? 年齢が年齢だけに少し心配です。
彼らに会うことが出来たら『かもんさま』の事もわかるだろうに・・・ フィールドワークに出かけてみましょうか・・・・・
それでは、本日はこれにて みなさま、明日も『ご安全に!』
(文責:壱号)