建築あるある塾【地産地消と温故知新】

「建築あるある塾」は、ツクル子とタテル先生の二人の対話から、建築にまつわる様々なうんちく話をわかりやすく開設するコーナーです。
ツクル子(家田創子)
新卒で地元の小さな建築会社に勤める元気女子。将来の建築家を目指して日夜奮闘中
タテル先生(杉出タテル)
ツクル子の隣家のおじさん。職業・年齢不詳。物知り。ツクル子には先生と呼ばれている。

ツクル子ちゃん。じゃ今日は建物(住宅)の地産地消について考えてみようか?

了解!なんだか食べ物の話しみたいだね・・・(笑)

そうだね。(笑)
「早速ですが、問題です」
日本における住宅の寿命は、平均どのぐらいでしょうか?

げげっ、難しい、何それ・・・。
30年ぐらいかな。でもおばあちゃんちは戦前って言ってたから・・90年ぐらいになるし・・じゃ・・・間を取って、60年!

残念!
はい、それでは正解は・・大体30年ぐらいと言われています。

へぇー、そうなんだ・・でもそれってずいぶん短くない?

そうだよね。
ちなみに国交省が平成28年に発表したデータによると日本32.1年、アメリカ66.6年、イギリス80.6年という結果だったんだよ。民間のデータになると、日本とイギリスでは28年と141年と5倍もの差があるものも伝えられているね。



ひぇーショック!日本が一番短いんだ・・・。
でも、どうしてそんなに寿命が短いの?

さぁーそこだね問題点は。
勿論一つの原因だけじゃないんだけどね。
あくまでも個人的な意見だけど、高度経済成長期に質より量を優先させてどんどん住宅を供給したころに、最初のボタンの掛け違いがあったんじゃないかな?と
僕は思っているんだ。
そして経済の成長期にはスクラップ&ビルドでも問題視されなかったんだろうけれど、今の様に社会が成熟して大きな経済成長が難しくなった時代に、住宅の寿命が30年というのはあまりにも酷い話だと思うよ。
だって住宅ローンを払い終わるころに定年を迎えてもう一度家を建てるなんて、現在の経済情勢では夢物語だよね。

そうだよね!ほとんどの人にとっては一生に一度の夢のマイホームだもんね。二度家を建てるなんて・・・・考えただけでおそろしいわ・・・。

でもねツクル子ちゃん。おばあちゃん家は戦前に建てられた家で築80年だって言ってたよね。そこに長持ちする家の大きなヒントが隠されているんだよ。

でもおばあちゃんちは本当に古い家だよ。
田舎のお家で柱や梁はとても太いんだけれど、全部むき出しで。屋根も古い古い瓦でお寺みたいな感じ。
設備もだいぶんとボロボロになっているから使いづらいしね

設備機器なんかはその都度入れ替えてつかえばなんてことないよ。
おばあちゃん家みたいな作りがこの国の気候風土には何よりいいんだよ。

へぇーそうなんだ。確かに私はおばあちゃん家、大好きだけどね。すごく気持ちがいいんだよ!
具体的にはどんな部分に学ぶのがいいんですか?

日本の気候風土は住宅にとってとても厳しい環境なんだ。夏場には気温が35度にもなってものすごく湿度が高い。いわゆる高温多湿だね。
半面冬場には零下になる気温でカラカラに空気が乾燥する。
なかなか振れ幅の大きい過酷な環境なんだよ
ところで、お寺みたいな家ってどういう風にお寺っぽいんだい?

縁側があることと・・・
そこに掛かっている庇の感じが一番お寺っぽいかな。

多分、大きな大きな庇がぐっと張り出しているんだね。
ちなみに、ツクル子ちゃん「南中高度」って言葉聞いたことあるかい?

何それ?わかんない。
ナンチュウコード?
中国の人?

(笑)いやいや、南中高度というのはね
太陽が一番南に来た時の地面との角度の事を言うんだよ
東京だと夏至の一番高い時で約78度
冬至の一番低い時で32度ぐらいだね

へぇー、夏冬でそんなに違うんだ。知らなかった。
でも、それがおばあちゃん家とどんな関係があるの・・・?

おばあちゃん家だけじゃないんだけど
昔の家っていうのはたいてい。庇が大きく張り出しているよね。
その庇が真夏は厳しい太陽の日差しを家の中に入れないようにさえぎって、逆に真冬はなるべく中まで日差しを呼び込んで家を明るく温かくするっていう日本の気候風土に合った生活の知恵から考えられたものなんだよ。

へぇー、昔の人の知恵はスゴイね。まさに温故知新だね。

そしてそもそも外壁は屋根では無いんだから、たくさんの雨があたる事自体かなりの雨漏りのリスクになるんだよ。
昔の家が押しなべて長寿命なのは大きな庇が外壁に雨があたる事を防いでくれた事が大きいだろうね。

そういえば、現代の家は軒や庇の出がほとんどない家が多いよね。将棋の駒みたいな形も多いし・・・・。
でも、なんで軒の出がなくなっちゃったんだろう??

土地に限りがあるから仕方がない部分もあるだろうけれどね・・・でも残念ながらコストダウンも大きな原因だろうね。標準的な30坪程度の家だと、軒をお寺みたいにたっぷり出すのと、全く出さないのとでは1.4倍ぐらいの屋根面積の開きがあるからね・・・・・。

あーあ、またコストダウンか・・・いやになっちゃうね。
でも先生!地産地消っていうのは? どういうことなの?

ごめんごめん、長い脱線だったね(笑)
でも、温故知新っていうのが何よりのキーワードだからね
おばあちゃん家が築90年
現在の解体される家の平均寿命が約30年。
ツクル子ちゃん、それってなんかすごくおかしくないかい?

おかしいね・・・確かにすごくおかしい。
古い建物のほうが長持ちだなんて・・・・・

でも、京都や奈良みたいな古い町並みには町家っていう古い住宅がすごくたくさん残っているよ。
お寺や神社には100年以上長持ちしている建物がザラにあるだろうしね。
でも同じ住宅でも高度経済成長期に建った家はあまり残ってないでしょう。

そういえばそうだね。
古すぎる建物のほうが長持ち。
・・・という事なのかな?

この二つの一番大きな差は、地産地消の材料で作られたか、外国から輸入した材料で作られたかなんだよ。

国産材で作られたか、輸入材で作られたかの違いという事ね

そうなんだ。そもそも木材というのは、自然に生息する中で弱肉強食の世界を生きている。しかも間伐というシステムによって、発育の悪い木材たちは、発育の良い木材を更に大きく育てるために間引かれたりするんだよ。
結果、無事に木材として出荷されるのは競争を勝ち残ってきたエリートの頑強な木ばかりというわけだ。

構造材としての適性が高いという訳か・・・・

そうだね。昔、特に戦前は交通機関が発達していないから近くの山で切り出した木を、筏を組んで川下りで運んだり牛や馬に運んでもらったりしていたんだ。というよりそれしか手段が無かったといったほうが正しいのかもしれないね。
重い木材を遠い距離運ぶことが難しかった時代であったからこそ、自然と地産地消が成り立って、寿命の長い住宅が誕生したという訳なんだ。
木を腐らせてしまう腐朽菌にしても、その土地で育った材木の方が耐性が高いのは当然の事だしね。

私たちが海外旅行に行ったときになれない水でお腹を壊すけれど、現地に住んでいる人たちは平気なのと同じ理屈ね。

これからツクル子ちゃんの世代の人たちが建物を作る中では、「温故知新」を心の隅において計画を進めると、素敵な建物が誕生するんじゃないかな。
建物の形の基本形は、何千年前には確立しているんだから、基本をリスペクトしながら新しいことにチャレンジするのがなにより大切だね。

うん先生、どうもありがとう!これからは少し自信を持って取組めそうな気がしてきたよ。
温故知新・・良い言葉だわ!座右の銘にしよう!(了)