建築あるある塾【ウッドショック】

仕事からの帰り道、新卒で小さな建築会社に勤める「ツクル子」だ。笑顔と元気が取り柄の女子だが今日はなんだか元気がない様子。うつむいてとぼとぼと歩いている。
そんなツクル子を隣家のおじさん「タテル」が出迎える。長年建築関係の仕事につき、ちょっと謎めいたおじさん。「タテル」の事を「ツクル子」は先生と呼び、様々な相談に乗ってもらっている。

ツクル子ちゃん、こんばんは!
おそくまでたいへんだね! 今帰りかい?

タテル先生こんばんは!
そうなの今日はいろいろとたいへんで遅くなっちゃった・・

まあ、初めては何事も時間がかかるからね・・・
でも、なんだか元気が無いけれど大丈夫かい?

うん、大丈夫・・・。

なにか仕事のトラブルかい?

うん、初めて担当する現場なんだけれど
お家を作る材木が何処の材料屋さんに聞いても入ってこなくてこまってるの・・・

あぁ、ウッドショックってやつだね

ウッドショック?

今年の3月頃から表面化したんだけれど
北米からの輸入木材が品不足になって大きく値上がりしている現象の事なんだよ。きっと、かつてのオイルショックになぞらえてその呼び名が付いたんだろうね。

へぇー、そうなんだ。
でも国産の材料だったら関係ないんじゃないの?

そうだね、でも一般的な住宅で使用されている木材の3分の2は輸入材だから、不足の影響が国産材にも
波及しているんだろうね。
ここに林野庁がわかりやすくまとめてくれた資料があるから見てごらん。


木造住宅一戸あたりに使用される木材は平均すると24㎥。
部分別に国産材、輸入材の割合を示した資料なんだよ

へぇー、スゴイわかりやすい。
合板なんかも意外と沢山使われているんだ

この資料によると、平均的に使われている輸入材の量は一戸あたり15.72㎥になるから、65.5%は輸入材に頼っている計算になるね。

それが、取合い状態になっているってことなのね・・・・
でも3分の2が輸入材なのか・・・ちょっとびっくりだな
こんなに山ばっかなのに・・・・・・

そうだね。それと日本の材料は杉やヒノキが中心で
柱ならまだしも梁には米松なんかの強度がある材料が必要だからね。この表を見ても梁材はほとんどが輸入材頼みだろう

日本には、梁材に使える強い木はないの?

もちろんあるよ(笑)カラマツなんかのように強くて適した材料もあるにはあるんだけれど、どれを使っても輸入材に比べるとコストが上がってしまって、中々使いにくいって事じゃないかな・・・

なんだか残念ね。結局値段の事が一番の理由なんだ。
でも、そもそもなぜそんなに急に不足したんだろう・・・?

それはまぎれもない、コロナウィルスの影響なんだよ。

えっ、なんで?なんで?
どうして木とコロナウイルスが関係するの?

新型コロナウイルスが蔓延するなか
世界各国の政府が「量的緩和」と言って
大量のお金を供給する金融政策をとったんだ。
日本でも、ステイホームの間の失業給付金や
ちょっとピンチな会社の為の貸出金なんかも
それが原資になっているんだよ。

日本でも一人10万円っていう給付金が至急されたよね

そうだね。そして、コロナが怖いからって
郊外に住宅を建ててステイホームしようって考えた人たちが世界中には沢山いて、その人たちの住宅ローンにもそのお金が流れこんだ結果、一種のバブルが起こったんだよ

へぇー、そうだったのか。世界中で建築ブームが起こっているって事ね。じゃ先生、建物の値段はこのままずーっと上がり続けていくの?
たいへんだよ。そんなことになったら・・・。

まあ、物価上昇に合わせて高くはなっていくだろうけれど、今のようなバブル状態はそろそろ沈静化に向かっていると思うよ。
各国の政策もそろそろお金の蛇口を占める算段を始めているし、今回ほどの住宅の供給数をずっと毎年続けていく事も現実的ではないからね。

そうよね。日本は少子化って言われているから
住宅の着工数も減っていくはずだもね。

まあ、今回は
材木の価格が高騰したんだけれど、そもそも材木の値段が住宅価格に占める割合は1割ほどだから、そんなに大きな値上がり要因ではないんだよね。
むしろ全体の3割ほどを占める職人さんたちの人件費の値上がりのほうが与える影響は大きいかな

えぇー材木費用は1割!そんなに少ないの?
大切な骨組みなのに?
その方がショック!まさにウッドショックだわ・・・

材木は植林してから何十年もの時間が必要だから
すぐには難しいんだけど、これからは国産材ももっともっと活用できるような取組を始めたほうが良いよね。
そもそも日本の気候風土に一番適しているのは紛れもなく国産材だからね。

地産地消が一番ってわけね。

そうそう、その通り。
そもそも戦前は木材自給率、ほぼ100%だったわけだしね
ツクル子ちゃんの世代が頑張ってくれれば
もっと建築の地産地消が根付いて、ウッドショックに負けない木材自給率の高い時代がやって来るかもね。

わかった!地産地消に向けて頑張るわ!
でも、木材自給率って??

OK!では次回はそのあたりを説明していこう!