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建設業DX化ロードマップ2/4 なぜ建設DXはすすまないのか

合同会社ゲンバゴが考える「建設業向けDX化戦略コラム」の【第2回:なぜ建設DXはすすまないのか】です。
建設業の抱える課題に始まり建設業界でDX化の歩みが遅い理由やDX化成功のポイントなど、業界歴35年・Salesforceユーザー歴20年の筆者が各種エビデンスや実体験に基づき分り易く解説します。是非皆様のDX化の参考としてご活用いただけますと幸いです。

1:建設DXへの大号令


図表1・2:出典 三井住友銀行-i-Constructionの将来像
~建設業におけるIoT化の動向

図表1・2はSMBCがまとめられた i-Constructionの将来像~建設業におけるIoT化の動向 という資料からの抜粋です。さすがSMBC、とてもわかりやすく端的にまとめられているのでご紹介させていただきます。

国土交通省は2015年12月に「ICT技術の全面的な活用」により建設現場の生産性向上を目指す取組「i-Construction」の導入を公表しました。これは、調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスで、ICTの活用をはじめとした様々な分野の産学官が連携して、IoT、人工知能(AI)などの革新的な技術の導入を進めることで、生産性が高く魅力的な新しい建設現場を創出することを目的とした新たな取り組みです。
i-Constructionに合致した取組には各種補助金も創設されインセンティブが働くこともあり、公共の土木工事の現場で徐々に浸透が進んでいます。ドローンで測量して、BIM/CIMでモデリング、IoT建機(無人大型建設機械)で掘削する。なんていうのもまさに未来的な取組ですね。


図表3:建設投資の構造(出典:国土交通省)

ただ、現在の i-construction の対象は公共の土木工事に限定されている為、建築を含めた建設業全体への波及効果としては、まだまだ生産性が大幅に向上する。というところまでには至りません。
図表3は建設投資額の構造を解説した資料です。こちらを見ると i-Costraction の対象となるのは政府土木への34.9%の部分だけであることがわかります。国土交通省は生産性を20%向上させることを目標と掲げていますが、建設業全体として考えたときには35%×2割の7%の生産性向上にとどまることとなります。前回のコラムでお伝えした建設業の労働生産性3,000円が7%伸長したとしても3,210円。製造業の6,000円にはまだまだ届きません。

i-Constractionそのものは時代に合致した良い取組みですし一定の進捗もみられるのですが、残りの65%、特に民間の建築分野での生産性向上が何よりのカギを握っています。官民一体となった取組、大幅な規制緩和、産官学をあげた技術革新による大きなブレイクスルーが求められています。


図表4:3Dプリンター住宅


図表4は3Dプリンターで製作された住宅です。登場した当時に比べるとずいぶん家らしくなってきました。これなら筆者も住んでみたいかもしれません。建築基準法にどのように適合していくか?等、まだまだクリアすべき壁も多いのだろうと思いますが、プレファブリケーション手法による住宅・非住宅のユニット化(工場生産化)と合わせて、実現領域に入ってきているように思います。願わくば政府や政治家の皆様にも規制緩和をはかっていただき、ブレイクスルーを導く手助けをお願いしたいところです。

建設DXへの大号令
・土木分野では i-Constraction によりDX化が進行中
・3分の2を占める建築分野、特に中小事業者がDX化に遅れ
・技術のブレイクスルーには法整備も必須条件

2:建設業のDX化の現状

図表5:業種別IT投資額比

上の図表5は各業種別において、売上高に対してのIT投資額の割合を表したグラフです。一般論ではかけるべき費用は売上に対して3%程度と言われたりもするのですが、上記を確認するとまだまだそこには届いていないようですね。
建設業での実績を確認すると2020年度に売上対比2%以上の積極投資を行った企業の数は約8%、1%から2%の企業と合わせると約20%程度となります。2020年度では技術サービス業と情報通信業を除いて、その他の業界もさほど大きな差はないのですが、2021年度になると様子は一変します。建設業ではIT投資額が微増程度にとどまっているのですが、その他の業界では大幅に投資額が伸長DX化が一気に進んでいるのが良くわかります。こんな資料からも建設業のDX化がなかなか進んでいない現状が垣間見えます。
粗利益額の違いなど収益構造や業界の特性から考えて、全業種を一列に並べて比較するのはなかなか難しいようにも感じますが、少なくとも売上額対比の1パーセント以上、時には2パーセント以上のIT投資を行っている建設業の会社が、全体の20%程度は存在する。という事実を認めて、まずはその中に入ることを目標にするのが良いと考えています。前述したように建設業の生産性アップの選択肢はあまり豊富とはいえません。その中で建設DX伸びしろがあり効果が見込める手法です。まずは始める事、大変重要だと思います。
次章では、「建設業って意外とDX化が向いてんじゃないの!」ってお話をしたいと思います。

建設業界のDX化の現状としては?
・他産業にくらべ建設業のDX化の遅れは数値からもあきらかである。
・目標とする投資額を売上対比2%以上にする。
・伸びしろは大きい、技術承継や生産性アップの為に早期の着手を

3:実は建設業はDX効果が最強のはず!

「建設業はDX化が遅れている」「建設業界はシステム音痴だ」なんていう揶揄をよく耳にします。確かに「その通り」と言わざるを得ない部分もあるかとは思うのですが、長年この業界に従事してきた私は、システム音痴が多い等と思ったことがありません。むしろエンジニアとして素晴らしい技術や知識を発揮される様をたくさん見てきたので建設業とIT、建設業とシステム化はかなり親和性が高いのではないかと考えています。

図表6:屋根の構造


かつて現場で大工さんが屋根を支える母屋や垂木を刻んでいるのを見たことがあります。今でこそプレカットといわれるコンピューター制御の工作機械で刻んだ構造材ばかりになりましたが、昔は大工さんが上棟(棟上げ・骨組みをくみ上げる事)に先立ってすべてをげんのうやノミを操って手作業で刻んでいたのです。
しかし屋根は勾配がついている為、母屋の刻みの角度や垂木の長さの計算が必要になります。
その大工さんは耳に引っ掛けた赤鉛筆で、時折薄いベニヤ板に走り書き。電卓叩いて計算する様子さえありません。「こんなおおざっぱで大丈夫なのかな」と心配したぐらいなのですが、実は見事に三角関数(サイン・コサイン・タンジェントって言うアレです。)を使って頭の中で計算し、現場で使う定規(一定の角度になる為の治具)を作っておられたのでした。
恥ずかしながら数学が大の苦手な私は、年を取った大工さんのお話がほとんど理解できませんでした。設計事務所から派遣されたはずの若手所員が、しわくちゃの棟梁に完敗した瞬間でした。
上記のようなお話は実は珍しい事ではなく、筆者の35年間の業界生活の中では日常茶飯事でした。大工さんだけでなくそれぞれの職種でそれぞれのスキルを発揮する方に大変多くであったものです。TV番組に例えるとNHKのプロジェクトXのような「凄いねー、まさに技術だねー」というような出来事が毎日のようにありました。


図表7:出典 CADの情報サイト CAD JOB

「建設業界はDX化と親和性が高い」と私が考える理由の一つに、CADという存在があります。今では図面を書くツールとして一般的にも浸透した言葉かと思います。CADとは Computer Aided Design を略した呼称で、直訳するとコンピュータに支援されたデザイン(設計)ということになります。CADの歴史は意外に古く、その誕生は1963年頃迄さかのぼります。私が入職した1980年代はまだまだ手書きの図面も多かったように記憶していますが、PCが一般企業に広まるとともにCADも普及していき、今ではCADなくしてはモノづくりが出来ないといっても過言ではありません。

また昔話になってしまうのですが、とあるゼネコンさんで、とんでもないスピードで図面を書く若い監督さんがいました。使っていたのはJWCADという無料で使える汎用CADソフトでした。どれくらい早いかというと、マウス操作で動かす彼の手がほぼ見えないぐらい。漫画のような話なのですが、冗談ではなく私にはそんな風に見えたのです。もちろんそんなスピードで図面を書くもんですから、生産性は爆上がり。当日の打合せで決まった変更が翌日の作業の前には図面が完成しているので職人さんたちはどんどん現場を進めて出来高もはかどるのです。監督さんの力量(熱意とプロ意識?)によって進捗はこうもかわるものかとびっくりした記憶があります。

ただ一点とても面白かったのが、その監督さんはパソコンの事を全く分かっていなかったようで、頻繁に私につぶやくのです。「このパソコンは会社に支給してもらったんだけど、脳がイマイチなんよ」とか「脳さえもっと良かったらもっと早く仕事が出来るんだけど・・・」とか。
最初は冗談を言っているんだ。と思ったわけですが、彼はこれ以上ないほどに真剣に話しているのです。どうやら彼はパソコン内部のCPUやメモリーの事を「脳」という呼び名で覚えてしまったようです。まあ達人にとっては呼び名は何でも良い、弘法筆を選ばず。ということでしょうか。

建設業では意外と昔からITには馴染みがあるのです。また、個々のスキルは決して他産業の人々に劣ることなく優れているのです。あとはそれをどのように組み合わせるかのオペレーションの問題だと考えています。

CADのお話が出たので製造業と差がついた大きな理由についても少しふれておきます。
ものづくりをする際に、設計というスタート地点に、CADというコンピューティングが大きな影響を与えた。というお話をしたのですが
製造業ではCADでデジタルデータを作成した後に、CAMにそのデータを引き継いで制作する。という事が一般的になり大幅な効率化が果たされました。
例えば、金属製品ならば、CADで製品の設計図を作成 → 入力した寸法を制作の為のCAMデータに変更 → NC旋盤などにデータ入力して金属製品を加工 というように人の手を加えずとも製品を製造できる。という状況が生まれたのです。そしてその技術はとどまるところを知らず今では3Dのデータをそのまま製作できる3Dプリンターという技術まで生み出されました。

一方、建設業ではどうでしょうか?CADで設計データを作成する。ここまでは同じです。設計事務所や建設コンサルタントで作成されたデータがゼネコンへそしてその内容が各協力会社に配布されます。CADデータのまま配布されることもあるでしょうが、多くはPDFデータとして活用されます。
もうお分かりのように、せっかくデジタルのデータとして作成されたCADデータが、残念ながら十分に活用されずに早い段階でアナログ的な活用へ逆戻りしてしまうのです。建設業でCAMを活用して自動で部材を製作できる。などは本当に一部のスーパーゼネコンのレベルのお仕事でしか見受けられないのが現実なのです。
これは扱うものが大きいという物理的な理由もあるでしょうが、最大の障壁となっているのは各々の事業体が異なる組織であることが理由となっているように思います。何十年何百年と続いてきた商流、多層下請け構造が主流な以上、なかなかこの点のカイゼンは進まないかもしれません。

すべてをデジタル基盤上で進めることが出来る、誰でも参加可能統一規格や新たな商流(緩めのコンソーシアム認定のような商流)の誕生。
夢のようなお話でありますが、そんな建設業界の地殻変動級の大きな変革が起こらないかな・・・・? 時々考えてしまいます。

建設業はDX効果が最強のはず!
・職人さんたちは昔から生粋のエンジニア集団
・細かい部分での親和性はすでに担保されている
・古くからの商流が障壁となっている。新たな枠踏みの登場が必要。

4:建設DX伸び悩みの本当の原因

本コラムでは、なぜ建設DXはすすまないのかと題して、考察を進めています。
ここまでのところは、国土交通省から「i-Construction」という。1:建設DXへの大号令がかかり、土木では一定の成果が出始めているが、2:建設業のDX化の現状を、全体的に俯瞰すると特に中小の建築部門でのDX化の遅れが顕著である。しかし、歴史などを紐解いてみると、3:実は建設業はDX効果が最強のはず!といっても過言でないぐらい親和性があるにもかかわらず、現実的には進んでいない。とまとめることが出来ると思います。この章では、建設DXが伸び悩む本当の原因について考えてみましょう。

私自身はその理由を、「アプリやツールが多すぎて現場が疲弊し逆に効率が悪くなっている事」に尽きると考えています。

建設業の特徴として前回のコラムでも工期が長いというお話をしました。リニア新幹線ほどではないにしてもビル建築などでは数年単位の工期が必要になります。最小の単位として、木造住宅建築などでも設計段階から完了までを考えると半年程度の期間が必要です。
そしてその中にも、設計・諸官庁の手続き・基礎工事・躯体工事・各種設備工事・屋根や外壁などの専門工事・内装や機器取付など仕上工事・完了引き渡しに伴う事務処理や手続き・完了してからはアフターサービスと本当に多岐にわたる業務が存在するのです。
当然、そのそれぞれの作業を適したツールを使って業務遂行するのが一般的なのですが、それがあまりに多く存在し、すべてに精通して初めて円滑に業務が遂行される。というような状況が多いのです。
そのような状況を筆者は「アプリが散らかっている」と呼んでいます。そしてその散らかり具合は熱心にIT技術を取り入れる先進的な考えを持った組織であればあるほど強いように感じています。

これをお読みいただいている皆さんが、もし建設業界関係者の方であれば、部下の方から
「またですか?」「前のツールもまだ使いこなせてないです」「勘弁してください」というようなお声を聞かれたことはありませんか? そしてその担当者の皆さんもきっと「上からDX推進の指示があった。でも具体的に何に取組めという指示はなく、とにかく何か考えろ・・・どうしよう」とお考えになっていると思います。

とても厳しい言い方になってしまうのですが、「建設業ほど長い工期が必要で多岐にわたる業務が必須となる職種」において、ひとつの単機能の便利ツールですべてが解決する。なんてことは絶対にないのです。そして単機能な便利ツールを数多く導入すればするほど悩みが深まっていきます。
・見積ソフトとしてこれが良いと聞いたから見積の専用ソフトAを導入しました。
・顧客管理はこのアプリBが最新だそうです。
・会計ソフトは昔から建設〇〇Cを使っているのでこれで行きましょう。
・働き方改革で労務管理に注力したいのでクラウド型の工数もとれる新製品を選びましょう

もちろん選ばれたすべてのアプリやツールは、それぞれにとても素晴らしく高機能なのですが、最大の失敗は、

現場名をすべてに入力せねばならないこと
お客様の名前住所を毎回入力せねばならないこと
契約金額を何度も入力せねばならないこと
自分自身(担当者)の名前をログインのたびに入力せねばならないこと、なのです。

API連携などにより、各種アプリを連携することが出来ればまだしもなのですが、筆者の経験によると専門性に優れた高機能なアプリケーションになればなるほど他社アプリとの連携には後ろ向きだと感じています。まあそれも、囲い込みしたい企業側からすると当然のことかもしれません。

全社員が、お客様のお名前を何回入力しているのか?一度数えてみると面白いかもしれません。入力する前に名前間違いがないように何かの書類やデータでお名前を再確認するところから時間換算してみると、愕然とされると思います。
結局のところ建設業のDX化においては、まず手始めに細かな無駄を極力省いてコツコツ時間を生み出していくのが何よりの王道です。まずは自社の運用を見つめなおすことが第一歩なのです。
次回のコラムでは、いよいよ建設業に特化したDX化の具体的な手法について皆様とご一緒に考えたいと思います

それでは、今日も明日も「ご安全に!」

文責:ゲンバゴICHIGO


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