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建設業DX化ロードマップ1/4 建設業の抱える課題

合同会社ゲンバゴが考える「建設業向けDX化戦略コラム」の【第1回:建設業の抱える課題】です。
建設業の抱える課題に始まり建設業界でDX化の歩みが遅い理由やDX化成功のポイントなど、業界歴35年・Salesforceユーザー歴20年の筆者が各種エビデンスや実体験に基づき分り易く解説します。是非皆様のDX化の参考としてご活用いただけますと幸いです。

1:建設業の現状

図表1:新築住宅着工戸数の推移【出典COASYS NOTE】

景気動向を占うために、しばしば「新築住宅着工戸数」という指標が用いられます。こちらは持ち家・賃貸・社宅・分譲(戸建て・マンション)などすべての新築住宅が一年間でどのぐらいの戸数建設されたのか?を表す数値です。もちろんこちらにはリフォームやリノベーションなどの改修工事や商業施設の建設などは含まれていませんので建設業の動向すべてを表すわけではないのですが、定点でずっと観測し続けることで景気動向を占うにあたって大変重要な指標とされています。(図表1)

平成20年から21年(2010年)にかけてリーマンショックの影響で大きく落ち込んだ着工戸数も、アベノミクスなど経済対策の効果により徐々に回復傾向にありましたが令和2年にはコロナの影響で再び落ち込みます。 現在の状況としては、その落ち込みから徐々にではありますが回復中というところでしょうか。

ただしこの先は?と問われると、あまり楽観視できる状況ではありません。2024年4月の総務省の発表では、昨年10月時点の住宅・土地統計調査の結果、国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高の13.8%だった事が報告されました。少子高齢化により人口が急減フェーズに差し掛かったと考えると、この先に爆発的に着工戸数が増えるという事は難しいのかもしれません。


図表2:建設投資・許可業者数・就業者数の推移

一方、新築住宅だけでなく建設業全体のいわゆる建設投資額の全体を確認してみましょう。
2010年(平成21年)に新築住宅に同じくリーマンショックの影響で底を打った建設投資額はアベノミクスの効果や東京オリンピックなどの大型案件開発、高速道路や新幹線開業などのインフラ整備によって順調に回復していきます。

2010年にピーク時84兆円の半分である42兆円を割り込んだ建設投資金額は、ついに2023年に70兆円の大台を回復しました。この間、住宅着工数がほぼ横ばいであったことを考えると、官民合わせた大型案件やインフラ投資がかなりの効果を発揮したと考えられます。そしてこの先の新築住宅着工数にあまり期待が持てないことを考えると、規模の大小問わずこれからの建設投資は、リノベーションやリフォーム、インフラのリプレイスなどがREをキーワードとした内容が主軸になっていくと考えるのが自然かもしれません。

ただ、図表2からはもう一つネガティブな大きな課題が浮かび上がります。
それは、建設投資額が順調に伸長しているにも関わらず就業者数は横ばいかむしろ減じている。ということ。

弊社のお客様はほぼすべてが建設業の会社様です。お会いする機会があると、私は決まって「現在のお困りごとは?」と質問させていただくのですが、ほとんどのお客様が「人材不足」をあげられます。上記の図表を見ると、確かに「それもそのはず」と納得するしかありません。

建設業の現状としては
・新築住宅の案件は減少傾向、主軸がリノベーションやリフォームなどへのシフトが加速
・大型案件を中心に仕事はたくさんあるが人材不足によって受注が困難
・需給から人件費(外注費)や資材費が高騰し利益確保が厳しくなっている

などがあげられます。

2:建設業の課題

前章の通り建設業界では人材不足が顕在化し事業運営の大きな足かせとなっています。それに輪をかけたのが時間外労働の上限規制適用開始、いわゆる建設業の2024年問題です。ただこちらについては建設業・運送業などを除いたほとんどの業界で2019年(中小企業では2020年)から施行されている働き方改革の一環であると考えると、時代の流れともいうべきすべての事業者に課せられた大切な取組です。

残念ながら建設業界にはまだまだ「残業や休日出勤が美徳」的な風潮が残っています。筆者自身も建設業の経営者でしたが、思い起こせば自分自身やスタッフ含めて自己満足にも似たそんな空気感の中に浸っていた記憶があります。もしかするとそんな風潮が若手人材が集まりにくい一因となってるかもしれません。

図表3:出典国交省年間労働時間

図表3は国土交通省がまとめた建設業や他産業における年間の労働時間の推移を比較した資料です。建設業界での労働時間の総平均は2007年の2065時間から2020年に1985時間へと約80時間減少していますが、全産業では建設業以上に働き方改革が進みその格差は更に大きくなっています。 
2020年度の総労働時間は全産業平均が1621時間であるのに比べて、建設業では1985時間、実に364時間もの差がついてしまいました。月あたりにすると約30時間、毎日1.5時間程度余分に働いているイメージでしょうか?

お客様とお悩み事のお話をする際、必ずと言ってよいほど「若い人が採用できない」「採用できても長続きしない」と伺います。
特に地方で活躍される地場に根差した企業様になる程その傾向が強いように感じています。そしてほとんどの方から[田舎だから仕方がない・・][3Kだからしょうがないよね・・]といった諦めにも似た雰囲気を感じてしまうのです。
もちろん不利な面があるだろう事は、私自身が建設人であるので理解できるのですが、「地元が大好き!ここで仕事がしたい!」というお話もよく耳にします。まずは他の産業との間に生まれた格差をどのようにして埋めていくのか? そんなところから始めるのが建設的かもしれません。

実際に筆者がお客様にお伺いした素敵なお話です。
とあるプラント系建設業のお客様。ご訪問したところ営業や事務のスタッフがお若い方ばかりでした。
社長様へ「悩んでおられる会社様が多いのですが秘訣を教えてもらえますか?」とお伺いしたところ、ローカル局のテレビCMにチャレンジしておられるとの事・・・。筆者にとっては目からうろこの瞬間でした。 結果「おもしろそうな会社だ!」と若いスタッフが集まってくれたそうです。
決して大企業という訳ではなく小さな組織ではあるのですが、若くて前向きな方が集っておられます。建設業はものづくり、まだまだ創意工夫で志を持った人財を集めることは可能なようです。


図表4:総務省労働力調査

人材不足とワンセットで考えるべき課題が高齢化問題です。 こちらの図表4は建設業就業者の高齢化が進んでいる様子を表現したグラフです。
20代の若年層の就業者割合は全産業平均では16.6%なのに対して建設業では11.6%。全産業平均では6人に一人が20代の社員であるにくらべて、建設業では9人に一人が20代という事になります。また55歳以上の割合も全産業平均が30.5%にくらべて35.3%と5ポイントも上回っていることがわかります。こちらの資料19年までの統計となりますので、現在はこの図表より5歳年を経ているということにもなります。この図表からも、建設業では若者離れが顕著となり、高齢化がどんどん進行していることがわかります。

また、最も危惧すべきは技術の継承が難しくなる事です。建設業は言うまでもなく安全安心を担保して国民の命を守る建物や施設を作る。という大きなミッションを担っています。その実現の為、先人たちは多くの現場の中で研鑽を積み、技術や知見を蓄積していったのです。その大切な技術の継承も、高齢化した熟練者に更なる延長を依頼して何とか維持しているのが現在の状況です。ただそれもあと10年が限界でしょう、熟練工たちが高齢化により引退するまでに手を打たねばなりません。

若者離れを食い止めて技術を継承する。タイミングとしては待ったなし最後のチャンスといっても良いでしょう。
建設業界は、まだまだ「教えるものではない見て技術を盗みなさい」とか「昔の図面や見積を見て自分で考えなさい」など、ひと世代古めの風潮があります。そこには確かに真理も存在するため、山本五十六元帥の「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」が、技術継承の最適解なのかもしれません。しかし、もうそんな時間が残ってないかもと不安にもなります。ここはひとつ、IT技術・動画やマニュアルの作成スマホの活用など、現代の技術や手法を総動員して技術継承を急ぐのがひとつの解決策ではないでしょうか?


図表5:総務省 労働力調査
図表6:建設業の労働生産性の推移【出典】一般社団法人 日本建設業連合会資料

人材不足・技術継承・高齢化など人や労働環境にまつわる問題に加えて、建設業にはとても大きなもう一つの課題が存在します。むしろこちらの成長が果たされて無いことが、すべての悪循環の源になっているかもしれません。それが労働生産性の問題です。

図表5は製造業建設業そして全産業平均労働生産性の推移を表にしたものです。
労働生産性とは、実質粗付加価値額 ÷(就業者数×年間総労働時間数)で計算され、時給のように表記される経済指標です。文字通り金額が多ければ多いほど生産性が高い事となります。 

1995年を確認してみると、建設業が2,854円に対して製造業は2,957円。その差は3%程度と小さなものでした。
ところが約20年後の2014年には、5,461円(1995年比1.85倍)まで労働生産性を伸ばした製造業に対して、建設業は2,687円(0・94倍)とマイナス成長に落ち込んでしまったのです。
そして、その後やや持ち直した建設業では、2021年時点で3,000円程度まで回復を果たしたものの、製造業ではついに6,000円の大台を超える成長を果たすこととなりました。 この差はいったいどうして生まれたのか? 建設業界人としてはにわかに信じることが出来ない、なんとも残念な結果です。

製造業では、カイゼンやカンバン方式など新しい生産方法をどんどん導入してコストダウンと効率化を実現しました。そしてインターネットを利用したシステム化IoTによる生産ロボット導入など徹底的な合理化により労働生産性を2倍にしたのです。いわゆるDX化が成功した良い例と言えるでしょう。

では、それに対して建設業界はどうでしょうか? 
建設業では【屋外の過酷な環境の中で】【毎回オーダーメイドの製品(建築物)を】【ひとつ(1棟)だけ作る】という特性を持つ為、製造業に比べカイゼンのPDCAが回りにくく効率アップやコストダウンが難しい状況が常について回ります。 しかしそうは言っても労働生産性の低さは、給与水準にも直結する事柄です。手をこまねいているとますますの人材流出につながりかねません。早急な生産性向上の対策が求められています。

建設業の課題としては?
・若手の人材不足の解消を
・高齢化と技術継承
・労働生産性の向上

が代表的なものとして挙げられます。

3:建設業の将来予測

ここまでは主に建設業の現状と課題を見てきました。少しネガティブな話題が多かった為、ともすれば暗くなってしまいがちになりますが、はたして建設業の未来はどうなっていくのでしょうか?少し考察してみましょう。

そもそも建設業は社会においてどのような役割を果たしているのでしょうか?

私たちの住む日本は、豊かな自然に恵まれ世界でも類を見ない美しい四季を持つ国です。しかし同時に、地震・台風・豪雨・豪雪等、厳しい自然環境に置かれ、毎年のように多くの尊い人命と貴重な財産が失われてきました。
このような国土で「安心」「安全」「快適」な暮らしを守るためには、防災・減災対策を一層推進し計画的な社会資本整備を進めることが重要です。

加えて建設業は、中央集約型の他産業とは異なり、地方において多くの雇用を創出し、地域経済を支える基幹産業として、大切な社会的役割を果たしています。
私自身、全国のお客様とお話させていただく際に毎回強く実感しています。
我々が属する建設業は、安全で住みやすい国民生活を実現し、地方の雇用創出と経済発展に必要不可欠な産業なのです。そしてそれは今までもこれからもいささかも変わることはありません。

前述したように、建設業の最も大きな役割は人々の暮らしや経済活動を安心安全に支えることです。
なかでも高い技術力と勤勉な努力によって社会インフラ整備の一翼を担う存在として長年その責務を果たしてきました。ただ、その多くが高度経済成長期に整備されたこともありインフラの老朽化が大きな社会課題になっています。そしてその事がこれからの建設業のひとつの方向性を示しています。


図表7:笹子トンネルの天井崩落事故

インフラ老朽化問題が世間で大きな注目を集めるきっかけとなったのは、2012年12月に発生した中央自動車道 笹子トンネルの天井崩落事故でしょう。高速道路の天井板が崩落して9人が犠牲になるという事故は、今までにない痛ましい事故として大々的に報道されることとなりました。この事故を受けて、国は5年に一度のトンネルや橋の点検を義務化しましたが、その結果多くのインフラが老朽化していて修繕が必要だということが判明したのです。


施設種類施設数2020年2030年2040年
道路橋(2m以上)73万橋約30%約55%約75%
トンネル1万1千本約22%約36%約53%
河川管理施設(水門など)約4万6千約10%約23%約38%
下水道管きょ総延長 約48万Km約5%約16%約35%
港湾施設約6万1千施設約21%約43%約66%
図表8:国土交通省のインフラ老朽化対策ポータルサイト「社会資本の老朽化の現状と将来」より

上記の図表8は、国土交通省のインフラ老朽化対策ポータルサイト「社会資本の老朽化の現状と将来」にて発表された、建設後50年を経過するインフラの割合を示したものです。例えば車で河川を越える際に通行する「橋」の場合、 2040年には75%が建築後50年を経過する。ということを表しています。

この調査以降も予算不足がボトルネックとなって老朽化した道路や橋などの修繕が十分には進んでいるとは言えないのが実情です。とはいえこれからは間違いなくスクラップ&ビルドからメンテナンスに主軸が移っていくと考えられます。

限られた予算の中で、ひとつでも多くのインフラを延命させるには、官民が連携して効率的なメンテナンス技術を開発し維持管理コストを減らす努力が求められています。例えばドローンを使った省力・少人数の点検や、IoTを使ったインフラの状況の監視、AIを使った画像診断など、民間が得意とする技術やサービスにもインフラ点検に活用できるものが数多くあります。


図表9 クラフトバンク総研まとめ

もうひとつ、少しだけポジティブなお話です。
ここまで「若手の人材不足が著しい」とさんざん書いてきた訳ですが、どうも少し様相が変わって来ているのかも?という記事を見つけましたので共有します。
それは、建設業への新規学卒入職者(高卒、大卒者など)は2022年に4万3000人で少子化のなかにあっても10年前から5000人増加している。というものです。

絶対数がまだまだ不足し需給を満たしていないという事実はありますが、新規入職者は増加傾向にある。ということがわかります。むしろ入職してからの離職率が高いことを課題として対策を急ぐことが重要なのかもしれません。

図表9「企業が考える定着しない理由」「離職した若者が考える仕事を辞めた理由」を比較したものです。(主に現場で活躍する若手技術者を対象)
企業側は、3Kや人間関係や職業意識を挙げておられますが、若者たちは日給月給の雇用の不安定さや休みの少なさ移動のわずらわしさ等を挙げています。
やはり企業側と若者側には少し認識のずれがあるようです。

かつて高度経済成長の時代に、入職する若者たちが「金の卵」と呼ばれていました。現在の建設業界にとってもまさしく若者は「金の卵」なのだと思います。
夢と希望を抱いて建設業に入職した人財が、一人の職業人として生まれおちるまでに離職してしまうのはあまりにもったいない!
是非、次世代のエースとして大きく育てる方法を考えてあげてください。

建設業の将来予測は
・建設業は多くの社会的役割を担う基幹産業なので決して無くなることはない
・これからの仕事はスクラップ&ビルドからリプレイスやリノベーションへシフトが進む。REがキーワード
・他産業とのギャップを埋めて若手人材にアピール!力を注ぐべきは育成

今すぐ始めましょう。

4:解決手法の提案

ここまで本コラムでは[建設業の現状]を確認し[建設業の課題]を抽出し[建設業の将来]を占ってみました。いよいよ[解決方法]の提案という事になるのですが、まずその前に一般の方にはなかなか理解しにくい建設業界のヒエラルキーについて少し説明したいと思います。

建設業界のヒエラルキー

建設現場では様々な職種で多くの人が働いています。本当に大きな現場となると様々な職種の職人さんたちが入れ代わり立ち代わり毎日千人規模でやってくる。そんな現場で毎朝8時から行われる朝礼などは、なかなか見ごたえのある壮観な風景です。

筆者はかれこれ35年、建設業一筋で仕事をするなかいろいろな立場で建設業に関わってきた訳ですが、そのなかで気づいたなんともおもしろい業界のヒエラルキーについてお話いたします。ただし多くは[かつての建設業では]という前提と、あくまでも[私自身の主観による]ものである。という事はご理解ください。
また、工事の規模や種類によっても違いがあります。下記はそこそこの大きさのビル等をゼネコンをトップとして建築する。というような場合とお考え下さい。

図表10:建設業でのヒエラルキー(ゲンバゴICHIGOの主観による)

建設工事でヒエラルキーのトップに来るのは、これは何といっても施主さんです。我々の業界では「ほどこすぬし」と表すほどに偉い人なのです。分り易く言うと「その建築物・構造物を造るための対価を支払う人」ということでしょうか。公共工事の場合は国や地方自治体となるでしょうし、住宅であれば個人のお客様を指します。
大規模な現場の場合、末端の担当者や施工職人はめったにお話しする機会もないのですが、時折現場確認に来られる日などは何となく現場がピリピリとした緊張感に包まれていたりします。またそんな日はいつもにまして現場が隅々まできれいだったりするのですぐにわかります。

続いてヒエラルキーの2段目は設計事務所さんです。土木工事の場合などは建設コンサルタントなどがこのポジションにあたります。施主の意向を反映した設計をし、施主の代理として現場の進捗や成果物(建物)が設計通りに製作されているか?などを監理します。工事中に発生する不測の事態などにより細かな設計変更や仕様変更は常に発生しますので、そんな変更にもすべての決定権を持たれています。
私自身、設計事務所に勤務したことがあるのですが、現場から毎日のように挙がってくる質疑事項に、素早く的確に返答するのになかなか大変な思いをしたことがあります。なかには現場から挙がる要望が「施主の立場からして許容できるかどうか?」などを判断せねばならないことも多々含まれているからです。
施主の意向を尊重しつつデザインや機能性にも知見を発揮し現場への指示を出す。なかなかの調整力も要求されるお仕事なのです。

ヒエラルキーの3段目としてやっと現場のトップが登場します。図表では現場監督さんとあえてフランクに書かせていただきましたが、大きな意味としてはゼネコンという意味で決して一人の人だけを指しているわけではありません。現場の規模によっては監督さんが担当別に10人ぐらいいらっしゃることもあります。
また、このポジションの方が現場代理人と呼ばれることもあります。なんだか厳めしい重い言葉ですね。実は代理人とは請負会社の社長の代理を意味し、言葉の響き通りとても重い責任を担っているのです。特に公共工事では配置義務常駐義務など細かな定めがあり必須要件となります。この現場監督さんの実務は、品質・予算・工程・安全衛生の主要管理業務を含めた全体の調整役いわば現場の司令塔です。
かつて筆者が設計事務所や末端の内装業者として丁稚奉公に励んでいた若手時代の監督さんたちは、とっても恐ろしい人たちでした。
時間にうるさく、出来栄えに厳しく、怒鳴り散らしてばかりで、うかつに近づけなかった記憶があります。でも情に厚く理不尽な出来事には毅然として、すこぶるカッコ良い人が多かったようにも思います。現在であればパワハラだとかコンプライアンスとかで一発退場なのでしょうが、当時はまだまだ荒っぽい職人さんも多くいた時代だったのでそんな風にならざるをえなかったのでしょうね。

さて。四段目からはいよいよ現場で働く職人さんたちが登場します。
実は現場で働く職人さん達にもヒエラルキーは存在します。同じ建物を作る同じような立場の職人さんたちなのに、職種によって力関係が変わる。とても不思議なことではあります。そしてそのとても不思議なヒエラルキーは建設業全体にも蔓延しているように思います。かつてこんな出来事がありました。

筆者の生家の稼業でもあった設備工事で番頭業(現場監督)としてマンション建築に携わった時のお話です。
鉄筋コンクリート製の建物工事では水道や電気の配管を通すルートにコンクリート打設の前にあらかじめスリーブ管というガイド配管を入れます。折角打設したコンクリートにわざわざ穴をあけて強度を低下させるのはナンセンスであるという事から。配管ルートがコンクリートで埋まってしまわないように紙製や薄い鋼製の模擬配管を先に仕込んでおくのです。当然のことながら型枠大工さん鉄筋屋さんばかりの中に水道や電気の職人がウロウロするというような状況が生まれます。そこで驚くべきヒエラルキーが発動したのです。
番頭である私に現場で作業する職人さんから連絡が入ります。「まだ挨拶がないから、スリーブを設置するなと言われた。どうしよう・・」私はすぐに現場を収める監督さんに連絡します。「こんな事いわれているんだけど・・・」と、すると「悪いけどビール券でも持って挨拶に行ってくれるか?」
もちろん、現在はそのようなことはないでしょうが、当時はこんな事が日常茶飯事でした。まあ、理不尽なことに毅然と対処できない気弱な監督さんも混じっていたのかのしれません。

現場での職人さん達のヒエラルキーは、
【躯体(建物本体)にかかわる職種】 > 【内装など付随する職種】 > 【水道や電気や空調などの設備に係る職種】 > 【資材や機器の納入業者】
おおむねこんな感じであったように思います。分析してみると、そこには規模の大きさや仕事の順序が大きく関係しているようです。

情報共有の重要性

ここまで建設業界のヒエラルキーについてながながと説明してきました。それは現場の状況を少しでも多くの方にお伝えして理解いただく事が解決方法への提言には不可欠であったからです。

建設業の大きな特徴としてまず第一に期間が長いという事が挙げられます。例えば重要なインフラであるリニア新幹線の工事の場合、後に本線となる実験線の着工は1990年の事でした。2027年に名古屋まで先行開業という計画で始まったのですがそれも延期となりなかなか開業が見通せない状況です。少なく見積もっても着工から40年ぐらいの工事期間が必要なことになります。22歳で入職した人材が、完成するころには定年を迎えている。そんなスパンも存在するのが建設業なのです。

二番目の特徴としては実際に働く職人さんたちは全体像が全く理解できていないという事です。例えば建物の基礎工事を担当する職人さんや請負う会社は基礎工事が終われば役割を終え次の現場へ向かいます。基本的に彼らが完成までにその現場を訪れることはありません。出来上がった後に通りがかった折に目にするというようなことが多いのかと思います。製造業であれば、どの部品の開発者も、どの工程を担当する技術者も完成形が共有できているのが普通かと思います。
残念ながら建設業においては、各事業者の所属する事業体が多岐にわたることや、一点物の建造物を造るという性質上、完成形を共有しながら従事するというのが困難なのです。

もし完成形や仕上がった建造物の果たす役割などが、関わる全ての人々に共有されていたとしたら、多少なりとも良い方向へ何かが少し変わるのではないかな?と考えています。少なくとも若手人材の採用や定着、効率化などには役立つのではないでしょうか?

建設業のDX化

残念ながら建設業では情報共有がまだまだ進んでいません。国土交通省などでは令和5年度からBIM(Building Information Modeling)対応を原則適用としていますが現時点ではむしろ仕事が複雑になったという声が多くまだまだ時間がかかりそうです。まあ確かに3D CADを飛び越えて一足飛びにBIMの原則適用は特に中小事業者にとっては重荷になるでしょう。
そして、前述したとおり建設業は【屋外の過酷な環境の中で】【毎回オーダーメイドの製品(建築物)を】【ひとつ(1棟)だけ作る】という特性において、他の産業のようにどんどん効率化が進むという業種でもありません。残念ながら小さなカイゼンを積み重ねていく他ないのです。

そんななか最も有効な手段と思われるのは、やはりDX化です。逆に言うと他の産業に比べてDX化の遅れがみられる分、伸びしろは大きいとも言えます。
次回のコラムでは「なぜ建設DXは進まないのか」と題してDX化に取り組む際の注意事項などを皆様と一緒に考えたいと思います。

それでは、今日も明日も「ご安全に!」

文責:ゲンバゴICHIGO



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